WHOの「武漢肺炎」の呼称否定…やっていることに大きな矛盾

MERS感染の状況説明。WHOの中国語公式サイトより
WHOの中国語公式サイトより

世界保健機関(WHO)は2月11日、感染が全世界に広がりつつあった新型コロナウイルスについて「COVID-19(コービッド・ナインティーン)」と命名したと発表した。それまで定着していた「武漢肺炎」「武漢肺炎ウイルス」といった呼称を採用しなかった理由として「名前がいわれのない差別や偏見に利用されることを防ぐことが重要だ」と説明(テドロス事務局長)。しかしWHOは、MERS(中東呼吸器症候群)とMERSウイルスの呼称を現在も「正式」に使い続けている。

中国は「武漢肺炎」など、自国に関連付けられた名称の使用に猛烈に反発している。米国のトランプ大統領が「China Virus(中国ウイルス)」と論じた際にも、WHOの命名を引き合いに批判した。

感染症に地名が利用された例としては、1918年から20年にかけて世界各国に感染が広まり、1700万-5000万人の死者を出したと推定されている「スペイン風邪」がある。スペイン風邪ならば「過去の話」ともいえるが、MERSの場合には2019年12-1月にサウジアラビアで19人の感染が確認され8人が死亡するなど、現在も進行中の感染症だ。

MERSの存在が確認されたのは2012年なので、当時は「いわれない差別や偏見」についての認識がなかったという論法は成立するだろうが、改名はそう難しくないはずだ。WHOの主張をそのまま適用すれば、WHOはMERSの名称を使っていることで「いわれのない差別や偏見を生み出すきっかけを提供しつづけている」ことになる。

ちなみに、中国国内では新型コロナウイルスについては「新冠状病毒」「新冠状病毒肺炎」という呼称が使われる一方で、MERSは略称ではなく「中東呼吸総合徴」と呼ばれ、結果として「中東」という特定の地域名がことさらに強調される結果になっている(この場合の「徴」は「病気症状」と同義)。

COVID-19について最初に登場した「武漢肺炎」「武漢ウイルス」「中国ウイルス」といった呼称は言うまでもなく、最初に大規模な感染が発生した中国の湖北省武漢市にちなむ。中国メディアはこのところ、COVID-19が発生した場所は中国でない可能性があると強調している。中には、フランスのパスツール研究所が、同国で流行しているウイルスの株は、中国のウイルス株とは異なると発表したことを、自国起源説を否定するために使った記事もある。

ウイルスの株はしばしば変異するものであり、フランスで流行中の株と中国で流行した株が違っていたとしても、ウイルスそのものが中国と無関係とはいえない。やや無理な論理を使うことには、自国起源説を否定する論調には「ことさら感」がつきまとう。

ちなみに、スペイン風邪の起源もスペインではなかった。最初に病例が確認されたのは米国だった。しかし当時は第一次世界大戦の最中で、米国、イタリア、ドイツ、フランス、英国などは自国内での感染状況について報道を厳しく規制した。スペインは中立国だったので、国内で感染症が猛威を振るい国王までが発病して重症化したなどの報道を規制しなかったために、感染の蔓延が印象付けられた結果、「スペイン風邪」の呼称が定着したという。 COVID-19については、仮に発生した場所が中国ではなかったとしても、湖北省武漢市で世界初の大規模感染が発生した事実は動かない。従って「中国と特別な関係はないウイルス」と言う論調には、どう考えても無理がある。

MERS感染の状況説明。WHOの英語公式サイトより
WHOの英語公式サイトより