中華民国建国105周年、「九二共識」には言及せず、現状維持と「4つのノー」を強調

中華民国(台湾)台北市の総統府前で10日午前、中華民国成立105周年を祝う式典の「国慶大典」が行われた。蔡英文総統は同式典での演説で、中国側が台湾側に承諾を求め続けている「九二共識」には言及せず、両岸関係(中台関係)の現状維持と、大陸側と善意をもって接するが圧力には屈しないなどの内容の「4つのNo」を強調した。

 

両岸関係については、政権誕生時との「選挙民との約束」は現状維持だったとして、今後も堅持する考えを示した。

中国当局は、台湾側と1992年に香港で協議を行った際に、「1つの中国」すなわち台湾は中国の一部であることを双方が認めた「九二共識(九二合意、92コンセンサス)」が存在するとして、蔡英文政権が「九二共識」を認めることが、双方が対話をするための大前提と主張している。

「九二共識」は、2000年に陳水扁・民進党政権が発足する直前になって初めて、台湾政府・大陸委員会の蘇起主任委員が「存在する」と言明するなど、不審な点が多い。92年当時に総統だった李登輝氏らは「そもそも、存在しない」と明言している。

台湾では国民党などが「九二共識」の存在を主張しているが、国民党は内容について「双方とも『1つの中国』は堅持しつつ、意味の解釈は各自で異なることを認める」としている。つまり、台湾側は「中国の正統政府は中華民国」との認識を有しており、「1つの中国」と言っても、「台湾が中華人民共和国の一部」と認めているわけではないと、の主張だ。

しかし中国側は「九二共識」の内容を「『1つの中国』の堅持」だけとしている。この点でも、「九二共識」はきわめて問題ある面を持つといわざるをえない。

蔡総統は10日の演説でこれまでと同様に、「1992年の両岸の会談の歴史的事実を尊重する」と表明。その上で、「(大陸側と)約束したことは変えない」、「われわれの善意は変わらない」、「圧力に屈服することはない」、「(大陸側に)対抗する古い道には戻らない」との「4つのノー」という立場を変えていないと強調した。
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◆解説◆
民進党は基本綱領の冒頭に「主権・独立・自主の台湾共和国の設立」を盛り込んでいる。中国側が民進党政権を危険視する最大の理由だ。しかし民進党は1999年に採択した「台湾前途決議文」で、「台湾はすでに主権が独立した国家であるとの現状認識に立ち、現状を変更する場合は必ず住民投票によって決定しなければならないとする「台湾前途に関する決議文」ともしており、現実に対して一定の歩み寄りを示している。

10月10日の「国慶日(建国の日。通称は双十節)」についても、独立志向の強い人は「中国の辛亥革命の記念日。台湾とは無関係」と反発するが、蔡英文政権は「中華民国の建国記念日」として祝賀式典も実施した。これも、現実との妥協ということになる。

しかし、これまでの経緯を見る限り、蔡英文政権が「九二共識」を認める可能性が、極めて低いと考えられる。中国が今後、台湾に不利な状況を作り出し、台湾社会で「蔡英文政権、民進党政権はダメだ」との考え方を高めようとすることは、確実だ。

しかし中国は、“外交問題”で相手側の民意を読み違えることも多い。中国が蔡英文政権に圧力をかければ、「台湾人の中国に対する不信感や嫌悪感を想定以上に高めてしまう」可能性も大いにある。

なお、10月10日は辛亥革命の実質的発端になった、武昌起義(武昌蜂起)の始まった日だ(1911年)。ただし、辛亥革命の成功を受け、孫文が南京において中華民国の成立を宣言したのは1912年1月1日だった(清朝側が宣統帝<愛新覚羅溥儀>の退位を決定したのは同年1月29日)。

1月1日に臨時大総統に就任した孫文は、同年(1912年)を、中華民国元年と定めた。そのため、10月10日は実際には中華民国の建国の日ではなく、台湾で用いられる「民国暦」で今年(2016年)は「105年」ということになる。「民国暦」は日本の「大正」、北朝鮮が用いる「主体暦」と同じ数字だ。北朝鮮の「主体暦」は、故金日成(キム・イルソン)主席が生まれたと主張する年を元年にしている。(編集担当:如月隼人)

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Posted by 如月隼人