中国の「モンゴル語教育の大幅後退」問題を調べていてびっくり仰天

モンゴル語教育の現状維持を求める内モンゴルの子ども
モンゴル語教育の現状維持を求める子。「家の中の言葉が、自分の言葉」と書いた

中国による「モンゴル語教育の大幅後退」について調べていて、あることに気づき、びっくり仰天してしまった。まだ、いろいろと調べている最中なので、現時点では私が誤解している点があるかもしれない。ということを前提にしつつ、分かったことを中間報告します。

中国政府のモンゴル語教育についての政策に抗議するモンゴル人

私が調べてみたのは、国連総会が2007年に採択した「先住民族の権利に関する国際連合宣言(Declaratioion on the Rights of Indigenous Peoples UNDRIP)」です。この宣言の採択についての投票行動は賛成:143 / 棄権:11 / 反対:4で、「圧倒的多数で採択された」と言ってよい。反対国は米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドで、中国が賛成したか棄権したかはまだ分かりません。しかし中国は同宣言に署名している。つまり、国として内容を承認しているので履行せねばならないことになります。

さて、この宣言ですけど、扱った対象は先住民族居住地での資源に対する権利とか、経済関連が割と多いのですが、伝統や文化、言語についてもきちんと触れていいます。

言語に関連している主だった部分を抜粋しましょう。

●先住民族は、自らの歴史、言語、口承伝統、哲学、表記方法および文学を再活性化し、使用し、発展させ、そして未来の世代に伝達する権利を有する。

●先住民族は、自らの文化的な教育法および学習法に適した方法で、独自の言語で教育を提供する教育制度および施設を設立し、管理する権利を有する。

なんて具合です。

つまり、中国政府が、少数民族言語の教育を「中央の決定」として後退させたりしたら自らが署名して認めた「宣言」に違反することになる。そうとしか思えない。

ということで、中国語のサイトなんかもいろいろと調べたところ、気になることを発見しました。

日本では通常、この宣言(UNDRIP)の名称中にもある「Indigenous Peoples」を「先住民族」と訳しています。中国語では「原住民族」の語を使うのが一般的。「先住民族」の呼称だと「先の時代には存在したが、現在では存在しない」とのニュアンスが生じるとの説明を聞いたことがあります。

台湾では華人系以外の民族を、それまでの「山地同胞」から切り替えて、「原住民族」と総称するようになりました。一方の大陸では「少数民族」と呼んでいる。台湾の民進党政権は、「原住民族」に対する歴史上、差別や迫害があったと認め、華人に先行して台湾に居住していた民族としての権利を重視する方針を明確にしました。つまり、UNDRIPなどの「世界の潮流」と合致した動きです。

一方の中国は「少数民族」と称している。要するに「数が少ない」と言っているだけで、名称自体に「権利を認め尊重する」ことにつながる“含み”はない。

まあ、これは名称だけの問題と言ってもよいかな。肝心なのは内容だ。

台湾政府は1984年、それまでの「山地同胞」の呼称を「原住民族(先住民族)」に切り替えた。

ということで、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」という名称は、中国語でどう紹介されているかが気になりました。すると「联合国土著人民权利宣言」でした。あれ? どうして「原住民族」という呼称を使わないのか。

そうこうするうちに、見つかったのが森林資源と森林環境の保護なんかを手掛けるFSCという団体が中国語で発表したリポート。文化について扱っているわけではありませんが、最後の部分に気になる記述がありました。
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中国は「土著人民权利宣言」に署名したが、自国について「『原住民族』は存在せず『世居民族』だけが存在する」と主張している
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です。


まだ推論の域を出ないのですが、私が見つけたFSCのリポートが、英語で書かれた文章を中国語に翻訳したと考えると辻褄が合あいます。「Indigenous Peoples」という英語について、UNDRIPの名称の中国語訳は「固有名詞」と判断して「土著人民」の語を用いた。それ以外の部分では、中国語として定訳化した「原住民族」としたわけです。

「世居民族」の原語はまだ分からないのですが、中国語として理解すれば「代々、居住している民族」です。つまり、「後から来た有力民族の圧力を受けている」というニュアンスは反映されていません。

そして、「土著人民」や「土著人」といった語を中国語検索していると「中国に土著人は存在しない」と解説するページがいくつか見つかりました。

今のところ、ネット上のQ&Aのページしか見つかっていません。つまり当局の公式見解ではありませんが、記述がすべて同一なのだから、何らかの公式見解を反映したものと考えて、間違いないでしょう。

いずれのページも解答者側が「中国に土著人はいない」と主張。その理由も同じで「『土著人』とは現在も、原始的な生活をしている人を指す。中国の少数民族はすでに現代的な生活をしているのだから、『土著人』は存在しない」と記述しています。

以上を総合すると、中国当局が組み立てたロジックを再現できそうです
すなわち

(1)中国はUNDRIPに署名した。すなわち、中国は「土著人」の権利保障を約束した
(2)しかし、中国に「土著人」は存在しない
(3)したがって、中国が少数民族言語の教育を後退させてもUNDRIPに違反しているわけではない

ということでしょうか。これにはびっくり仰天しました。

繰り返しておきますが、以上はまだ「検証作業を進行中」の段階で論じたもので
「事実だと確認された」というわけではありません。

今後も調べ続けていくつもりです。

台湾の蔡英文総統は2016年、台湾の歴代政権は過去に権利を強烈に侵害してきたとして、原住民族代表に公式に謝罪した

社会

Posted by 如月隼人