中国で“のけぞり辞書”に遭遇した

今回は、はっきり言って下ネタです。いや、学術的なネタ。中国人の日本語学習環境で発生した「大問題」を鋭く指摘する画期的な内容であります(何を言っているのだか)。


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中国に留学していたときには、とにかく書物を買うようにしました。当時は、とても安かった。日本の中国書籍専門店で買うと、3,4千円する本が、何百円かあれば余裕で買えましたからね。


ある時、北京の本屋で「日本語外来語辞典」というのを見つけた。中国人の日本語学習者向けの本です。いわゆるカタカナ語というものは、中国人にかぎらず、日本語学習者にとっては、えらく面倒なそうですな。


英語かと思うと、「バックミラー」なんて和製英語がある。「ガレージ」みたいに、英語の発音とは相当に違うものがある。「アルバイト」とか「エネルギー」みたいにドイツ語由来の単語あり、「アベック」みたいにフランス語あり。


「ワンパターン」というと英語みたいですが、私の調べたかぎり、中国語の「王八蛋(ワンバーダン)」が起源みたいです。本来は「忘八蛋(ワンバーダン)」と書き、「忠・孝・仁、愛・信・義・和・平の8の徳目を忘れた奴(蛋)ということで、「とんでもない野郎」程度の意味。それが日本語に入り、英語の「ワン・パターン」と混同され、「おバカのひとつおぼえ」みたいなニュアンスで使われるようになった。


英字新聞で働く知人に調べてもらったところ、米国人も「ワン・パターンという表現は、英語として理解できるけど、日本人みたいな使い方は、あんまりしないなあ」と言っていたとのことでした。


その他、中国語から入ったカタカナ語としては「ロートル」があります。もとは「老頭児(ラオトル)」で「じーちゃん」ぐらいのニュアンス。「ロートル」=「老頭児」は、定説になっているみたいですね。今の日本では「ロートル」を使うことは少なくなったかな。少し前までは、スポーツ新聞で「巨人快勝 ロートル軍団が大活躍」なんて見出しが躍っていましたけどね。


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そうそう、中国で買った日本語外来語辞典の話でした。前文を見ると「現代日本語を理解するには外来語の知識が欠かせない」なんて書いてある。たしかにその通りだ。そして「日本では、辞書に載っていない外来語が大量に使われている。そこで、われわれは一般紙、雑誌、スポーツ紙など××種を1年以上にわたって調べ、掲載されていた主要な外来語を選んだ」なんて書いてありました。


なかなか、気合いが入った編集方針です。あ、「××種」についでてすが、まことに残念なのですが、この辞書、なくしてしまった。たしか、二十数種と書いていた。以下に述べるように、あまりにもおもしろい部分があったので、この辞書を人に見せびらかしたり貸したりしているうちに、行方不明。無念です。調子に乗りすぎた。


中国人向けの辞書ですから、見出し語は日本語(カタカナ)で、その次に対応する中国語が書いてある。中国語を勉強中の私にとっても、とても役立ちました。


さて、その辞書をなんとなく眺めていたら、こんな見出しがあった。


【フェラチ×】


もちろん×の部分は、きちんと書いていた。でも、格調高いこのブログに、この種の単語をはっきりと書いてしまうのはいかがなものかという問題もあり、オとは書かずに伏字にしておきます。ご了承ください。


「お、なかなかやるな」と思いました。“あまりにも卑俗な語彙”をあえて掲載しない辞書が多いのですが、私は「それは、違うのではないかい」と思っている。辞書とは、専門的なものを除き、普通の言語生活を反映すべきです。だったら、たとえ卑俗であっても、「一般人が知っている語」は収録すべきだと思っています。中国で出版されている辞書では、卑俗な語を排除する傾向がさらに顕著です。


それはさておき、日本人の大人だったら、たいていは「フェラチ×」という語も知っているだろうから、「実情を反映させて掲載したのか。中国の辞書としては画期的だ」と大いに感心。ところが訳語(中国語)を見てのけぞった。「長笛」と書いてある。


「長笛」とは「フルート」のことです。あの楽器のフルート。ちなみに「短笛」でピッコロです。


おおおおっとお。辞書を作った先生方、やっちまったよう。私が思うに、雑誌あるいはスポーツ新聞かなんかに「フルート」という言葉が“特殊な意味”で使われており、その単語をいろいろ調べるうちに「フルート」、「フェラチ×」、「長笛」がごっちゃになってしまったんだろう。


辞書を一から作るには膨大な作業が必要ですから、ある程度のミスは仕方ないと思いますが、よりによって、すごいところで間違いが出た。


仮に、あくまでも仮にですよ。中国の音大で長笛(フルート)を専攻している女子音大生がいて、そのお嬢さんが外国語の授業で日本語を選択していて、さらに、日本人と話す機会があったとする。すると、この辞書を使って「長笛」に対応する日本語を調べたその、向学心にあふれる真面目なお嬢さんは


「私はフェラチ×を勉強しています」


なんて口走るということになる。こりゃあ、どえらいことだ。