中国語の“汚い言葉”について(1)

外国語を勉強する場合、単語を覚えていくというのは、避けて通れない関門ですよね。言葉によって苦労の度合いは違うかもしれませんが、いずれにせよかなりの精力をつぎ込まねばならない。


でも不思議なもので「お下劣な単語」とか「お下劣表現」は一発で覚えてしまう。なぜなんだろう。中国留学中に、日本人の女子留学生にたずねてみたら、「そりゃ、まあ、そうよ」という答えが返ってきた。男女には関係ないらしい。


ところで、中国語を勉強している日本人の多くが、中国語の「罵りことば」を知ると「なんてエゲツつない表現をする。これだから中国人は……」なんてことを言います。


代表的な表現としては「ツァオ・ニー・マー」があります。「ツァオ」は英語の「fuck」と同じ、「ニー」は「あなた」、「マー」は「母親」です。英語の「Fuck your mother」と同様の発想ですが、「意味は微妙に違う」と聞いたことがあります。


英語の場合には動詞原形が冒頭にありますから、命令文です。したがって、「隠れた主語」は you 。中国語の場合には命令文ではなく、隠れた主語は「我(わたし)」。つまり、英語では「お前は母親と××してしまえ」という意味で、中国語では「オレがお前の母親を××してやる」という意味だとのこと。


中国語の場合、「ツァオ・ニー・マー・ラ・ガ・ビー」などと言う場合もあります。「ラ・ガ」の部分は「~の」の意と理解してください。「ビー」は女性性器をあらわあす卑語。省略して「マー・ラ・ガ・ビー」「マー・ビー」だけで使うことも多い。


少し前にお話しした「一般的な辞書が卑俗な語彙を避けるのは、おかしいのではないか」という私の考えですが、超大型の辞書を除き、日本で発行されている中国語辞典でこの方面がもっともしっかりしているのは、大修館の「中日大辞典」です。編纂したのは愛知大学。個人的には大絶賛です。


「ツァオ・ニー・マー」もちゃんと収録されており、「ごく下等なののしりことば」と説明されています。続けて「ツァオ他媽的祖宗十八代!」という文例があり「前例よりさらにひどいののしり言葉の一例」と書いています。直訳すれば「母親から18代前の祖先にさかのぼってFuckしてやる」です。いずれの文例も日本語への直訳はない。さすがに、はばかったらしい。


罵り言葉に「家族」や「性」を絡めることが多いのは欧米語も同じで、中国語だけが特に「えげつない」というわけではありませんが、中国語の場合には「文字」の問題も絡んでくる。


「ツァオ」という文字は、上半分が「入」で下が「肉」です。大修館の辞書ではこの文字が印刷されていますが、中国の印刷物でお目にかかることは、まずない。ついでにいえば「ビー」は、「尸」の中に「穴」と書きます。「尸」は物理的存在としての人体、英語でいえば「body」をあらわす部首と考えてください。それに「穴」です。こういう“えげつない”文字を使うので、中国語の罵り言葉は、ことさらに「お下劣」に思えてしまうようです。


「ツァオ・ニー・マー」を実際に会話で使えば、「クソッタレ」程度のニュアンスです。たとえば小説の会話文なんかには使います。その場合、「ツァオ」は発音がほぼ同じである「操」の文字で代用します。


上半分が「入」で下が「肉」の「ツァオ」の文字を、印刷物でお目にかかることはまずないので、中国人でも「この字が本当の表記」と思っている人がいるぐらいです。さらについでですが、日本人の名前では、ときどき「操」という文字が使われますよね。中国人はそれをみて、一瞬“ひっくりかえる”ことになる。例えば「如月操」だと、「キサラギがツァオする」という意味になってしまう(あくまでも、例ですよ)。