体型くっきり、夜な夜な出現するレオタード・ランナーを凝視

これまた古い話です。今から10年あまり前のこと。私は神保町という街で編集記者として仕事をしていました。


神保町と言えば日本屈指、いや世界有数の書店街です。でも、神保町にあるのは書店だけではない。小学館とか集英社という大手出版社、その他の各種出版社、そして編集など情報発信をなりわいとする会社が集中しています。


編集記者としての私の修行時代でした。仕事は深夜に及んで当たり前、終電で帰るのが当たり前でした。へたをしたら徹夜。


深夜まで仕事をしているとお腹がすく。ということで、その日のうちに何とかせにゃならない仕事の残量を気にしながら、コンビニなんかに行きます。私の仕事場は、神保町の表通りから道1本入ったところにあった。


午後11時ごろだったかなあ。人通りの絶えた道を歩いていると、後ろから「ひた、ひた、ひた」と足音が聞こえてきた。走って来る。


見ると、ショッキングピンクのレオタード。衝撃的だったなあ。深夜の暗い道で、体型もくっきりと浮き出るレオタード姿。私を追い抜こうとしている。思わず凝視してしまった。


すると、私の方をキッとにらんだ。怒鳴った。「見るんじゃ、ねーよ!」。


それも、とびきりの“野太い声”でありました。


それにしても、あのおじさん、何だったんだろうなあ。夜中にレオタード姿でジョギングすることを、悪いとは言えませんよね。そういう趣味が人に害を及ぼすわけじゃない。でも、そんな思い切り目立つ姿で走っているのに、視線を向けると「見るんじゃねーよ!」――。よく分からないなあ。


いろいろ尋ね回ったら、そのレオタードおじさん、結構有名だったらしい。編集長いわく、「ありゃ、Y政省の職員だ」。


え、なに? なんだって?


編集者なんかが、わんさと仕事をしている場所です。好奇心のかたまりみたいな人が多いですからね。だれかがモノ好きにも「尾行」したらしい。すると、近くの旧Y政省の職員宿舎に入っていったとのこと。ヒマだなあ。いや、ヒマなわけがない。ヒマじゃないから、深夜まで、仕事をしている。


「そんなことしてるなら、早く仕事を終わらせて帰ればいいのに」と、自分のことを棚にあげて思ったんですけどね。とにかく取材成果としては、たいしたものだ。


その後もしばしば、レオタードおじさんに遭遇しました。2、3度怒鳴られてからは、直視しないように心がけましたけど。


あのレオタードおじさんは今でも走っているのかなあ。