WBCの日本・台湾戦で思ったこと

9日のWBC日本・台湾戦ですけど、すごい試合でした。日本が最後の最後に追いついて、延長で逆転して勝利。もちろん私も日本人ですから日本のチームが勝てば嬉しい。でも、あの試合には勝ち負けを超越した価値がありました。


たとえば、東日本大震災に対して台湾が多大な支援をしてくれたことに感謝の意を示そうという動きが、日本人の間で特に組織されたわけでもないのに発生したこと。それから、試合後には台湾チームが観客に向けて深い謝意を示したこと。これで、日本人の間に台湾人に対する尊敬の念が高まった。まさに、スポーツの国際試合における、最良の形となりました。


さて、関連記事に寄せられたコメントを見ると、「台湾チームをチャイニーズタイペイと呼ぶな」なんて意見がありました。むむむ、と思いましたね。


たしかに、台湾でも「台湾と呼んでくれることに日本の善意を感じた」との報道がありました。


http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0308&f=national_0308_021.shtml


そうかあ、「台湾」と呼ばれた方が嬉しいのかあ。まあ、当たり前かもしれませんけど。でも、「チャイニーズタイペイ」という呼称が成立した経緯を考えれば、「時代は変わったなあ」との思いを新たにしました。


台湾、つまり中華民国は1970年代、外交において極めて厳しい状況にありました。中華人民共和国を「中国を代表する政府」として承認する国がどんどん増え、その結果として国連などの国際機関から追放される流れに歯止めがかからなくなった。


複雑な経緯があったのですが、五輪への出場も危うくなった。このあたり、IOCなどを舞台とする大陸側とのせめぎ合いは厳しかった。すでに1950年代から問題は表面化していました。


「スポーツの世界には政治を持ちこまない」ということは理想ではありますが、国際大会に出場するのは「国ごとの代表」ということが基本ですから、どうしてもこういう問題は出てくる。


実は、「台湾」という名称に強く反対したのは「台湾側」です。「中華民国は中国を代表する正統政府」との建て前がありますからね。「中華民国のチームが、台湾だけを代表するという考えは受け入れられない」ということです。いろいろすったもんだがあったのですが「チャイニーズタイペイ」という呼び名が定着した。


実は、この後がさらにややこしい。このあたり、台湾で実質的な「独立論」が勢いを得てきたことが関係しています。問題になったのは「チャイニーズタイペイ」の「漢字表記」です。台湾側は「中華台北」としました。中国(大陸)側は、公式には「中華台北」としながらも、メディアは「中国台北」と表記することが多かった。「チャイニーズ」ですから「中華」とも「中国」とも訳せてしまうわけです。


「中国台北」と表記すれば、「台北、つまり台湾は中国の一部である」というニュアンスが出てくる。一方「中華台北」の場合には「台北から出場した中華民族のチーム」ということで、「中国の一部」という色彩はあまり出ない。このあたり、実に微妙なところです。


2008年の北京五輪の時点でも、一部の大陸系のメディアは「中国台北」と表記していたようです。改めて、今回のWBCに関連する中国大陸側のメディアの報道を調べてみたのですが、私が目にしたかぎり、「中華台北」となっていました。政治的な議論になりかねない「中国台北」の表記は自粛する方向とも考えられます。


なお、中国大陸でも台湾チームを応援する人は多かった。大陸では野球がそれほどメジャーな競技ではないので、関心を持った人の総数はそれほど多いわけではありませんが、それでも「同胞」として応援する人が相次ぎました。


インターネットで調べると、台湾チームを「中華隊(中華チーム)」と表記する人と「台湾隊(台湾チーム)」と表記する人が、ほぼ半々といった感じでした。このあたりも、実にデリケートな部分だと思いました。


「中華隊」と表記した人は、「台湾は中国の一部」という意識を込めたのか、それとも単に「同胞意識」が出ただけなのか、はたまたメディアが「中華台北」とか「中華隊」と書いていることに影響されたのか。実に難しいところです。