いまだに解けぬ謎


小学校、たしか4年のころの思い出です。


学校のそばに、小さな工場(こうば、と読んでいただきたい)がありました。平屋の建物の横に、庭があった。ときどき、トラックが1台停まっていた。


学校帰りのある日、見ると職員が庭に集まっている。庭の木の枝が大きく伸びて邪魔になったので切ろうということになったらしい。若い男の人がのぼって、太い枝にまたがって、のこぎりで器用に切り出した。


まてよ。枝にまたがって、その枝の根もとを切ろうということは、枝とともに落ちてしまうのでは……。


一応、そう考えたのですが「何か、考えがあるのだろう。どうなるのかな」程度に思い、道から見物することにしました。その時は、同級生と一緒に下校したわけでなく、私ひとりでした。


工場に勤めている男女10人ぐらいが庭に出て、見上げていました。トラックは停めていなかったから、みんなが大きく広がって見ていた。枝の高さは、人々の頭より、もう少し上。子どもの視線には、とてつもなく高いところのように見えました。


枝にまたがった男の人は、一生懸命にのこぎりをあやつっている。不自然な角度にのこを引かねばならいので、ずいぶんやりにくそうだった。


枝にのこぎりが、だんだん深く入っていく。かなり切れ込みが入っていきました。そして突然、「バキ、メリッ!」という音がして枝が折れ、男の人と一緒になって落ちてきました。土の上に「ドゴン」と落ちた震動も伝わってきた。女の人が「きゃあっ」と悲鳴を上げた。


男の人は地面にぶつかって、横向きに転がりました。「いてててて」といって立ち上がったのは、少々たってからです。けがはなかったようでしたが、膝を強く打ったなどと言っていました。のこぎりがどう落ちたかは、記憶がない。覚えていないということは、のこぎりでけがをすることはなかったのだと思います。


枝を切る様子を見ていた人のうち、ちょっと年配の人が、落ちてきた男の人に、声をかけました。


「○○ちゃん、いったい何考えていたのよ」
(自分だって、それまで黙って見ていたはずですけど)


皆さん、いったい何を考えていたんだろう。いまだに解けぬ謎です。