東アジア今日は何の日:7月1日~台湾で客家語TV局、先住民語TV局が開局(2003、2005)

台湾で2003年7月1日に客家(はっか)語専門のテレビ局の客家電視台が、05年7月1日には先住民語専門のテレビ局の原住民族電視台(略称は原視など)が放送を開始した。
 
台湾住民の民族構成は複雑だ。中国大陸からの移住が本格的に始まったのは、17世紀前半だった。台湾南部を支配したオランダ東インド会社が、農園経営などのための労働力を求め、福建省などの沿岸から大量の漢族を呼び寄せたからだった。
 
福建省出身者の言葉の基盤となったのが、閩南語(びんなんご)あるいは河洛語(ホーローご)などと呼ばれる言語だ。中国語の一種ではあるが、北方方言を基盤とする標準中国とは大いに異なり、それぞれの言葉しか話せないのでは、意思の疎通はほとんどできない。閩南語あるいは河洛語は、現在の台湾で「台語(台湾語)」と呼ばれることが多い。話者は台湾人口の約75%と見られている(「台語」の呼称には、台湾のすべての民族を代表する言語とは言えないので不適切との批判もある)。
 
戦後になり台湾を統治することになった国民党政府は「標準中国語」を「国語(グオユー)」と呼んだ。「国語」の起源は、清朝期に北京の宮廷で使われた「官話」だ。清朝期の官僚は科挙により全国から選抜されたので、意思疎通のために宮廷所在地の北京語を土台に「官話」が完成された。
 
国民党政府も標準語として「官話」を踏襲した。また、中国大陸部を支配することになった中華人民共和国も「官話」など北方語を基盤とする「普通話(プートンホワ)」を標準語とした。台湾の「国語」と「普通話」には多少の違いがあるが、双方の話者はほとんど問題なく意思疎通ができる。
 
台湾を支配した国民党政権は「中国唯一の正統政権」を建前とした。そのため、国民に「国語」の使用を強要した。学校で生徒が「台語」を使えば処罰の対象になった(同様の状況は日本の沖縄にも存在した)。台湾では当時、若い世代を中心に、「台語」を「あざ笑うべき方言」と見なす風潮も浸透していったという。
 
ところが、1970年に台湾の伝統人形劇の「布袋劇」を昼休み時間のテレビ番組として放送したところ、大人気となった。「布袋劇」は「台語」で演じられる。視聴率は最高で97%に達したという。当初は30分番組だったが、放送時間は1時間に延長された。
 
当局は「農作業やその他の労働者の正常な休憩を妨げる」との理由で、同番組の放送を打ち切らせた。その後、「国語で布袋劇を演じる」ことを条件に同番組は放送再開を許可されたが、視聴率はさほど伸びなかったという。当局は改めて、「国語」以外の言語を用いるテレビ番組や歌曲を完全に禁止した。
 
テレビなどでの使用言語の「実質的解禁」が始まったのは、1987年に戒厳が解除されてからだった。2000年に登場した陳水扁・民進党政権は台湾の独自性を強調すると同時に、弱者をできるだけ配慮する立場だった。日本では民進党が「反中国」の政治勢力と見なされているが、民進党は台湾内部の政治について言えば、あきらかに「左寄り。リベラル」の勢力だ。
 
陳水扁政権は、台湾で「台語」よりも話者がさらに少ない客家語や先住民言語の話者に手を差し伸べることを優先した。そして、2003年7月1日には客家電視台(客家テレビ)、05年7月1日には原住民族電視台(先住民族テレビ)が放送を開始した。
 
なお、日本では「原住民」の用語が古くから使われていた。「かつての差別感」と切り離せないとの感覚もあり、現在では「先住民」「先住民族」と呼ばれるのが普通だ。しかし、中国語は字義を大切にする感覚が強いこともあり、「先住民族」の語では「先に住んでいた」ことしか示さないと、原住民族側の反発があり、本来の権利を認めることを示唆する「原住民族(=もとからいた民族、台湾本来の民族)」という言い方が採用された。また、中国語の「先」には、「すでに故人となった目上の者」を表す用法があることからも「先住」の言い方は忌避されたとの見方がある。例えば中国語の「先父」は、日本語では「亡父」に相当する言葉だ。
 
客家電視台と原住民族電視台の運営には政府からの補助金が投入されている。その後、客家電視台については2010年成立の「客家基本法」が、原住民族電視台の場合は2017年成立の「原住民族語言発展法」が、公的資金の投入などについての根拠法とされるようになった。
 
陳水扁政権は、「台語専門テレビ局」の開設は後回しにする格好になった。2008年に登場した馬英九・国民党政権は「台語専門テレビ局」の開設に熱意を示さなかった。ただ、実際には台湾で、「台語」によるテレビ番組は多く放送されている。
 
2016年に蔡英文・民進党政権が発足した翌年の17年6月23日には、客家語専門のラジオ局である講客広播電台(「客家語を語るラジオ局」の意)が開局した。
 
台湾の立法院(国会に相当)は2018年12月2
5日、「国家語言発展法(国家言語発展法)」を成立させた。同法は「国家言語」を「台湾の各固有エスニックグループ(民族集団)が使用する自然言語及び手話」と定めている。2019年6月現在、同法を根拠法として「台語専門テレビ局」の開設準備が進められている。(編集担当:如月隼人)

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