ことば:中国では安倍首相を「総理」とは呼ばない

この「ことば」のカテゴリーでは、私が興味をもった「ことば」の問題をご紹介します。中国語絡みが多くなるとは思いますが、とくにこだわることなく、気になった「ことば」づかいについて、気の向くままに書いていきます。

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ええと、前回は「チャンコロ」とか「ポコペン」とか“危ない”言葉をご紹介したので、今回は格調高く政治関連のことばについてです(え? ちっとも格調高くないですって? そうかもしれないなあ)

 

さて、中国では日本の政治や政治家についての報道が多い。日本における中国の政治関連の報道よりもずっと多いですね。というか、中国では日本よりも国外の出来事についての報道そのものが、日本よりもずいぶん多い。このあたり、日本人の視線はちょっと内向きなのではないかなあと、気になるところです。

 

それはさておき、例えば現職の安倍首相。日本では「安倍首相」も「安倍総理」もほぼ同様に使われますよね。憲法では「内閣総理大臣」と書かれているのですから、「総理」は略称で「首相」は通称と考えればよいのかな。

 

ところで、中国では必ず「安倍首相」と呼ばれる。「安倍総理」の語は使わない。なぜかというと、中国では「総理」と「首相」がきっちりと使い分けられているからです。

 

手元に、中国で最も一般的な辞書の「現代漢語辞典」があります。まず「総理(zongli、ヅォンリー)」についての説明です。(1)わが国国務院の指導者の名称(2)一部の国の政府首脳の名称(3)一部政党の指導者の名称などと続きます。

 

ちなみに「総」の字義には「総括する、全部の、全面的な、概括する、トップとなる、指導する」などの説明がならんでいます。「理」について関連する字義は「管理する、整理する」といったところでしょうか。

 

ここまでの説明ならば、中国でも「安倍総理」と言ってよさそうなものですが、「首相」を調べると、意味の差が明確になります。「首相(shouxiang、ショウシァン)」には「立憲君主制国家における、内閣の最高の官職」と書かれています。さらに「日本では総理大臣とも言う」と補足説明があります。

 

ちなみに「相」には「助ける、介添え役」という字義もあり、そこから「君主をわきから支える大臣」という役職名として使われるようになった。その「相」の中でもトップなので「首相」というわけです。

 

もちろん、日本の天皇陛下は政治に関与しないのですが、制度として日本は君主国の分類されます。したがって、「首相」です。日本に似た制度の英国首相も「総理」とは呼ばれず、必ず「首相」です。

 

一方で、ドイツやイタリアは君主がいない共和制なので、内閣のトップは「総理」と呼ばれます。ドイツのメルケル首相なら「黙克爾総理(モークァル・ヅォンリー)」です。

 

なお、「首相」や「総理」は、議会(国会)に指名される内閣のトップを指し、直接選挙などで選ばれる、いわゆる「大統領」は、中国語で「総統(ヅォントン)」です。つまり米国大統領も台湾(中華民国)総統も中国語では「美国総統(メイグオ・ヅォントン)」、「中華民国総統(ヂョンホア・ミングオ・ヅォントン)」と同様です。

 

ところで、中国の国家主席ですが英語では「President of People‘s Repubulic of China」となります。つまり、中国の主席も台湾の総統も、米国大統領も英語(そして欧米語)ではいずれも「プレジデント」になります。