台湾の蔡英文総統が原住民族に謝罪へ 「台湾人全体」の団結強める狙いも

 台湾・行政院の陳美伶秘書長(台湾政府事務局長)は26日、台湾で「原住民族の日」(解説参照)に定められている8月1日、蔡英文総統が原住民族に謝罪すると発表した。台湾の中央通訊社などが報じた。

 蔡総統は20日の就任演説でも、「新政権は謝罪の姿勢をもって、原住民族に関する議論に向き合う」と表明していた。また、台湾の過去における、社会の急激な変革期に発生した、人権侵害や各種の不正を見直し真相を解明するための「真相と和解委員会」を発足させると述べた(就任演説翻訳全文・第5回 参照)。

 

 陳秘書長によると、蔡総統は8月1日に「真相と和解委員会」も発足させ、過去に発生した原住民族に対する不当な扱いなどを処理するという。

 

 蔡総統の以前からの政治姿勢を見ても、「原住民への謝罪」は総統本人の信念によるものと分かる。一方では、原住民族問題への積極的な取り組みには、台湾人全体の「台湾人意識」を強化し、先進諸国に対しては「国際社会との価値観の共有」をアピールする政治的効果があると考えられる。

 

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◆解説◆
 台湾原住民族とは、17世紀ごろから中国大陸から華人が台湾に移ってくる以前から台湾に居住していた人々とその子孫を指す。単一の民族ではなく、2014年までに16の民族が公式に認められた。言語や伝統文化は、ポリネシアやマレーシアの言語や文化に近く、いわゆる「中華文明」とは別の文化・文明圏に属する人々だ。

 

 台湾原住民族は古くから、華人によって「蕃」と呼ばれていた。華人は、中国文化をある程度受け入れ、華人とも共存するようになった原住民族を「熟蕃」、中国文化を受け入れず、華人とも緊張関係である原住民族は「生蕃」と呼んだ。「熟蕃」は平地に住んでいたので、「平埔蕃」とも呼ばれた。

 

 日本統治時代になっても同呼称が踏襲されたが、1935年には平地に住む「熟蕃(平埔蕃)」を「平埔族」に、「生蕃」を「高砂族」とする公式呼称が定められた。「高砂」は安土桃山時代ごろからあった、日本における台湾を指す呼称のひとつ。

 

 戦後になってからは、「高砂族」の呼称が「山地同胞(山胞)」に改められた。しかし原住民族の中には、同呼称に対する反発も強く、原住民以外の華人からも同名称に対する批判もあった。そのため、1994年の憲法補正で名称が「原住民」とされ、97年の憲法修正で「民族」としての存在を示す用語に変更するとして、「原住民族」となった。8月1日の「原住民の日」は94年に憲法補正が成立した日。

 

 なお、日本では台湾原住民族が、日本語としては一般的な「台湾先住民」と呼ばれることもある。中国語では「先住」とすると「以前にはいたが今はいない」とのニュアンスが出るため用いられない。

 

 中国では台湾原住民族を、「自国の少数民族のひとつ」とみなし「高山族」と呼んでいる。ただし「高山族」として1民族の扱いだ。

 

 「原住民族」は「元から住んでいた民族」の意なので、「相応の権利が認められてしかるべき」との考えが内包されていると理解できる。中国で用いられる「少数民族」は人口比率だけに注目した語なので、用語としては権利の問題などの概念とは無縁ということになる。(編集担当:如月隼人)

 

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参考:・政院:蔡總統8/1代表政府向原民道歉(中国語)