中国政府、慰安婦問題の世界遺産登録を支持 「台湾絡み」の政略の可能性も

 中国政府・外交部(中国外務省)の華春瑩報道官は31日の定例記者会見で、旧日本軍の従軍慰安婦問題(関連資料/史料)を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録することを支持すると述べた。

 

 従軍慰安婦問題の世界記憶遺産登録を最も熱心に進めていたのは韓国だったが、韓国政府女性家族省は1月になり、同手続きについて「民間団体が進めている」と表明。昨年(2015年)12月の日中合意を受けて、政府として前面に立っての登録推進からは手を引いたことを、事実上認めた。

 

 ただし、韓国政府は「登録を目指す団体を支援する」可能性もあるとの考えを示した。

 

 華報道官は同問題について「第二次世界大戦期に日本軍国主義が起こした重大な難航だ。慰安婦関連の文献が世界記憶遺産に登録されれば、各国人民が侵略戦争の残虐性を認識し、歴史をはっきりと記憶し、平和を大切にし、共に人類の尊厳を守る助けになる」と述べた。

 

 華報道官はその上で、慰安婦問題で被害を受けたとする「国と地域」の民間組織がユネスコに世界記憶遺産に登録する動きについて、「われわれは支持を表明する」と述べた。

 

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◆解説◆
 中国はかねてから、自国にも旧日本軍による慰安所があり、中国人慰安婦もいたとして、日本を批判している。その意味で、外交部の華報道官が改めて慰安婦問題で日本を批判/非難してもおかしくない。今回の発言で興味深いのは、慰安婦関連の世界遺産登録を「支持する」と明言したことだ。

 

 同問題について最も強硬な姿勢を見せていたのは韓国政府だった。しかし日韓政府は2015年12月の時点で、とりあえずは合意に達した。つまり、韓国政府も同問題をこれ以上、日韓関係の障害にするのは得策ではないと判断したことになる。

 

 ではなぜ、華報道官が「われわれ(中国政府)は支持を表明する」と積極介入の姿勢を示したのか。可能性として考えられるひとつは「台湾絡み」だ。

 

 台湾では馬英九前総統が、“慰安婦”問題に、政治家としては最も積極的に取り組んできた。そして中国にとってみれば、馬総統は「ひとつの中国を認めて、台湾を中国に接近させた指導者」として、大きな貢献をした人物だ。

 

 総統を退任し、すでに国民党の指導者でもないのだから、自然な成り行きでは、馬英九氏の政治的影響力は、急速に低下するはずだ。

 

 しかし第1には、中国側が「井戸の水を飲むたび、井戸を掘った人のことを忘れない」という、中華文明圏の伝統的な価値観を示唆すれば、台湾人の対中感情にはプラスに働く。

 

 次に、台湾で慰安婦問題への関心が高まることは、台湾人の間で「大陸も台湾も日本に被害を受けた」との意識を強めることになる。つまり、同胞意識を醸成することができる。

 

 これらの理由から、中国にとっては対台湾関係を扱う上で、「慰安婦問題の火」は大きくなった方が「得」だということになる。今後、台湾における「慰安婦問題」に関連する動きを、中国政府が何らかの形で支援する可能性も否定できない。(編集担当:如月隼人)

 

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参考:・ 2016年5月31日外交部发言人华春莹主持例行记者会(中国語)