外交専門家、呉建民氏が事故死 論説「中国にポピュリズム批判をできる人はまだいるのか?」

 駐フランス大使、外交官育成の大学である外交学院院長などを務め、最近は中国を含む世界各地の排他的民族主義やポピュリズムへの警鐘を鳴らしていた呉建民氏が18日早朝、交通事故で死去した。中国では衝撃が広がっている。

 大手ポータルサイトの新浪網は「呉建民氏亡き後、だれがポピュリズムに対抗して論争できるのか?」と題する論説を掲載した。

 

 中国では、米国との「力の対決」を主張する意見発表が増えている。呉氏は安直に戦争を語ることを批判し、排他的民族主義とポピュリズムが結合することの危険性を説き続けた。

 

 米中関係では、米中ともに冷戦思考が残存していると指摘し、「こちらが勝てば、相手は負ける」、「相手が得をすればこちらは損」といった思考法は過去のものと主張し、双方が利益を得られる方法はあるはずだし、それを追求すべきと論じた。

 

 さらに、両国の対立点はじっくりと解決すべきと主張。解決しても別の新たな対立点が発生することは避けられないが、それでも解決する努力を続けるべきだと論じた。呉氏によれば最も危険なことは、1国の政府指導者がポピュリズムの手法を採用して国内の排他的民族主義におもねって、国際的な対立を制御不能な状態にしてしまうこととという。

 

 呉氏は習近平政権の主張を正しいとしながらも、中国にも危険な状況があると主張した。

新浪網の論説は、呉氏の突然の死の報に接して。人々はそれぞれ「沈痛さ」、「驚き」、「疑惑」さらには「喜び」を感じたと指摘。呉氏に対しては、非常に理性的な論者との称賛がある一方で「弱腰」、「漢姦(国の裏切り者)」との厳しい批判があったからだ。

 

 論説は、呉氏を支持していた人は、呉氏について、「中国が大国として健全に発展することを考え、狭隘な民族主義とポピュリズムを研究して批判していた」と紹介。反対する人は「平和の視点から世界を理解することは、世界の現在の秩序に適合しない」、「(国として)落伍したら叩かれるだけ」などと主張した。

 

 論説は、見解に分岐点があり論争が発生すること自体は有益なことだと論じた。さらに、呉氏は外交問題の専門家であることから、それぞれの人が自らの専門の立場から結論を出す場合、総合的な分析が加わっていれば客観的な結論が導き出されるはずと主張した。

 

 論説は、反対に、物事の一部しか探らず、そこばかりを誇大にとらえ、「真実を掌握した」と考えることは、極めて恐ろしい結果をもたらすと強調。極端さはしばしば偏執をもたらし、偏執こそが、災難をもたらす前提となるからだと論じた。

 

 さらに、呉氏が反対者と厳しい論争を繰り返していたと指摘。論争により問題点が少しずつ明確になってきており、それこそが「理性の門が開かれる」ことだったと称した。そして、論争を通じて「感情を多用し頭脳を使わない極端主義者は、把握している情報が偏っており、理性も減少してしまっていた」ことが明らかになってきたと、直接は書かなかったものの、呉氏の立場を支持した。

 

 論説は最後の部分で、「呉建民は逝ってしまった。しかし、見解の相違が消えたわけではない。論争や争い、さらに罵り合いは続くだろう。ただし、これらの論争が偏執という結果には終わらないでほしい」と主張。中国は苦難を経て、最近になってやっと安穏な日々を迎えることができた民族であり、再び苦しむことには耐えられないと論じた。

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◆解説◆
論説は生前の呉氏の主張を直接支持したわけではなく、論争そものもはよいことと主張しているが、実際には呉氏の外交分野における経験と知識、総合的かつ理性的な思考を称賛している。

 

 しかし中国でも、ネットにおいて「勇ましい声」が高らかに語られる傾向が強いのは日本と似た状況だ。上記論説に寄せられたコメントで「いいね」を最も多く集めているのは、呉氏に反対し「現在の問題は、われわれが平和を必要とするかどうかでない。米国をはじめとして、一部の国が南シナ海や東シナ海で挑発してくる。われわれがもし、こういう状況で最悪のことを考えなければ、本当に戦争になった時に、われわれはどのような手段でわれわれの利益を守ればよいのだ?」との主張だ。

 

 「いいね」が次に多いのは「国家にとって現在、最も必要なのは混乱を収めて思想を統一することだ。呉が死んだのは各種の思想をあらわにして、論争して、整理することに役立つことは明らかだ。いい時に死んでくれた!」だ。

 

 「中国には寛容性がまだ足りない。人の不幸を喜ぶ者が多すぎる」、「驚いた。残念だ」とするコメントも多く寄せられているが「いいね」の数では少ない。(編集担当:如月隼人)

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【参考】・新浪锐见:吴建民之后,谁还与民粹辩论?(中国語)