なーるほどねえ


中国語を扱う仕事をしています。基本は中国語を日本語にすること。文章から文章として扱うので、これは、ある意味で楽。話言葉の場合、特に同時通訳なんか、ベテランでもそうそう長時間は続けてできない。脳みそがぐちゃぐちゃになります。


逆に日本語を中国語にする仕事。これ、大変です。中国語に限らないはずですが、日本語を外国語にする場合、その外国語に、本当に精通していなければならない。文法、文法外のイレギュラーな習慣、語句が持つニュアンスなんかをしっかり把握していなければ、まともな訳にならない。私の操る中国語は、いくら頑張っても、「私、それするのこと、とても難しいことある」式の中国語にしかなっていない。


私の仕事は中国語の記事を日本語にすることです。直訳しているわけではありません。日本人読者があまり知らないであろう情報を加えたり、逆に不必要な情報を削ったり。記事の構成を変更することもある。原語どおりでは、表現の順序の習慣が違い、そのままでは日本人に読みにくい記事になってしまうことが多いのですよ。いずれにせよ、原文に書かれている内容を変更しない範囲で、いろいろと工夫しています。


このあたりは、“粛々”とこなしていけるのですが、「困っちゃう」ことが多いのが、中国語にとって外来語の固有名詞が出てきた場合です。要するに、中国以外の人名や地名ですね。中国語では全部漢字になっています。もとの言葉の復元は難しい。


とにかく、漢字で書かれてしまうと、もとの固有名詞を探すのに一苦労になる場合が多い。「知っていなければ無理」ということになります。

例えば、「纽约」は「ニウユエ」と読んでニューヨーク。語尾の子音は省略。New York」の「k」はシカトされている。こういうパターンは多い。

で、「New」は「纽」と書かれるのかというと、そうでもない。「ニュージーランド」は「新西蘭(シンシーラン)」となる。「ニュー」の部分だけ意訳です。もっとも、ニューヨークやニュージーランドなら、まあ、中国語を扱うならば「必須」というべき外国固有名詞。もっと手ごわいケースはいくらでもある。


英語ならまだしも、それ以外の言葉を意訳されると、どんどんつらくなる。「ユーゴスラビア」は「南斯拉夫(ナン・スラフ)」。「ユーゴスラビア」とは、「南スラブ人の地」という意味だったそうですね。言われてみれば「なるほど」ですが、スラブ系の言葉で「ユーゴ」が南を意味すると知っている日本人は、あまりいないと思う。


それとは別にどうしても、違和感を感じてしまうのがベトナムの地名。中国でハノイは「河内(ホーネイに近い音。)といいます。前に、北京の空港の出発案内で「行き先・河内」というのをみて、「はて、大阪の河内に空港はあったっけ」と、一瞬考えてしまったことがあります。


ベトナムの地名は本来、大部分が漢字表記だったそうですね。フランス植民地の時代にベトナムでは漢字が撤廃され、ローマ字表記に改めさせられた。今でもローマ字を使っていますから、日本ではベトナムの地名を表記するにあたて、原語の発音に近いカタカナにする。中国では、ベトナム語から漢字表記を復元します。だから「ハノイ」は「河内」となる。人名についても同様で、ホーチミンを中国語では「胡志明」と書きます。読み方は「フー・ヂーミン」。


漢字圏以外でも、主要地名なら、調べがつく。でも――人名でもそうですが――あまり知られない地名なんかでは、中国でも、表記が統一されていない場合があります。内容をもとに、英語で配信されている記事なんかを探して、なんとかカタカナ表記に持っていきます。


悩みも多いのですが、自分が苦心して調べ上げた地名なんかで、他のメディアがいいかげんな日本語表記にしているのをみつけた場合、結構、快感です。「ふ・ふ・ふ。あきらめてしまったのだね」なんて、心の中でつぶやいています(私も人が悪い)。


前に、中国語の記事に「中途島」という地名があり、首をひねったことがあります。調べてみたら「ミッドウェー・アイランド」でありました。いきなりの完全意訳。これには脱帽しました。そうそう、アメリカの地名で「長島」というのがあったので、なんだろうと思ったら、ニューヨークの「ロングアイランド」でした。そのまんま。